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梅香る

 投稿者:メール  投稿日:2010年 3月10日(水)13時35分16秒
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  春というのは、どうも好きじゃありません。
花粉症かって?
いえ、私は幸いそれには縁がなくて・・。
ああ、あなたの場合は、まずそれなんですね。
咳とクシャミですか。
泪目?
それは鬱しいでしょうね。

私の場合は、この時期、思い出さなくていいことが、あれこれ蘇ってきて・・。
人と別れるのは何故かこの時期。
梅の香りがしてくるともういけません。
自然に胸がじわっとして、まぶたが潤んでくるんです。

そう、もう2年前になります。
好きな人がいたんです。
向こうがどう思っていたかは知りません。
私はいつもそうなんです。
相手の気持ちはどうでも良くて・・・いえ、どうでもいいっていうのは、違いますね。
自分に自信がないから、そんな言い訳をしてるんですが・・。

とにかく、好きな人がいたんです。
寡黙な人で、誰とでも、親しく話をするタイプではありませんけど、たまに発する言葉が、心に響いてくる。
みんなでガヤガヤ勝手なことを言っているときに、黙って聴いていて、会話が途切れたときに、ぽつんと一言いうんです。
それが、妙に当を得ているんです。
さんざんみんなでたたかわした議論がどこかに行ってしまって、その人のひとことで、決まってしまうということが、よくありました。

始めは気取ってるなとか、格好を付けてるなと思いました。
でも、その人は、そんなつもりはないんです。
「話が速すぎてついていけないよ」と言いました。
何か言おうとすると、すぐに話が違う方に発展してしまう、考えている間に、どんどん先へ行ってしまうから、口を差し挟む間がないんだとも言いました。
そして、結論が出る頃に、やっと話の全体が見えてきて、自分の考えもまとまり、そこで出した意見が、何故か、採用されてしまう結果になるだけなんだと、苦笑してました。
やっぱり、ものすごく頭がいいのだとわかりました。
私は、利口な人は好きではありませんが、本当の意味で頭のいい人、賢い人は、男女に限らず、とても惹かれてしまいます。
自分にないものだからでしょう。

そんなことがあって、だんだん私はその人が好きになりました。
二人きりになる機会はないので、ある時、手紙を書きました。
教えて欲しいことがあって、でも、それは口実でしたけど、出したんです。
今どき、電話もメールもある時代に、手紙なんて、古いって?
アラ、私の時代は、それが当たり前です。
返事は、期待していませんでした。
もちろん、質問したいことの他には、何も、書いていません。
すぐに返事が来ました。
質問に対する答が書いてあって、「また私で応えられそうなことだったらいつでもどうぞ」と結んでありました。

嬉しかったですね。
あとで思うと、そんな何でもない手紙だから、向こうは、すぐに返事も書けたのだし、そんな一言も書けたのでした。
それを、特別に感じてしまった私が、いけなかったんですね。
考えてみると、決して派手なことのない、でも、人には細かな気遣いする人だから、その人に惹かれる人は、ほかにもいたんです。
偶然の事実から、それがわかりました。
その人には、罪はないのです。
親切に、私の手紙に返事を出していただけ・・。

でも、それがわかって、私は、その人から離れることにしました。
その人を含む集まりに、行かなくなりました。
「どうしたんですか。最近、ちっとも顔を見せませんね」という葉書が来たのは、ちょうど梅が咲き始めるころ。
私が行かなくなって、2ヶ月ほど経っていました。
どんな返事を書くべきか・・。
黙ってそのままにしていれば、それきりのこと。
そして、またそしらぬ顔で、出かけていけば、何もなかったことで済んでしまいます。
「久しぶりだね」と、笑顔で迎えてくれて、以前と同じように、交流が続くでしょう。

でも、私はそうしませんでした。
妙に正直というのか、不器用だというのか、アラ、そうね、なんて簡単に頷かないでください。
その人に「お会いするのがつらいから、もう行きません」と返事を書きました。
それで、その人は、やっと私の気持ちに気づいたようです。
いえ、もしかしたら、前からわかっていて、やり過ごしていただけかも知れません。
「そんなこと、言わないほうが良かったのに。残念です」と返事が来ました。

ええ、それだけです。
その人としては、そう言う他はなかったんでしょう。
口に出してしまったら終わりです。
ああ、見ている間に、また一輪咲きましたね。
夕べ、ひどい風だったから、心配してましたが、案外と強いんですね。
紅梅の香り。
まだしばらく愉しめそうです。
お寄り下さって、有り難うございます。
嬉しかったので、つい、余計なこと、話してしまって・・。
いえ、あなたはご存じない人のことですから・・。
あ、コーヒーが出来たようです。
ちょっとお待ちになって・・。
(「幕間のセリフ-2004-02-24-」より転載)
 
 
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